第31章 罪
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―――――体内に、金属が埋まる感触。
あぁ、初めてだ。
これが“憎しみ”。これが“刺される”ってやつか。
アンの表情はまるで僕が求めたそれだ。憎しみ。憎しみは甘美なものに思う。
だってそうじゃないか、憎んでいる間は、その人の事で頭がいっぱいだということなんだから。
無関心で存在すら忘れ去られるより、いくらかマシだ。
薄れゆく意識の中で、姉さんの濃紺の瞳に僕が映っているのが見えた。あぁ、どれぐらいぶりかな。こんなに近くで姉さんの瞳を見るのは。
姉さんと僕は、双子のようによく似ていると言われる。
母譲りの白銀の髪と、濃紺の瞳。
見た目は似ているのに、なぜこうも僕は姉さんに劣っているのだろう。
医学の才も、自分で道を拓いて歩いていくその度胸も僕には何一つなく、ただただ父の引くレールの上を馬鹿のように歩いていくだけ。
誰の特別な存在でもなく、自分という人間がなんのために存在しているのかすら、わからなくなる。
最年少で医師資格をとった姉さんは僕の自慢だった。
僕もそのあとに続きたかった。
でも、どんなにどんなに勉強しても、姉さんのようにはなれない。
父の期待はやがて少しずつ、姉さんに劣っている僕への気遣いのような態度になりかわる。
使用人たちは媚びへつらい、一番僕をその目に映しているハルですら、その心は姉さんのものだ。
――――――僕の、生きる意味はなんだ?
誰の為に、なんのために、何がしたくて息をしているのだろう。