第31章 罪
毎日が慌ただしく過ぎていく中、ある日の夕暮れにハルは語り出した。
「――――――お嬢様、私の罪を―――――聞いてくださいますか。」
今まで一度も語られたことの無かった、私が生まれる前の彼女の、悲しい話を。
ハルがこの屋敷に来たのは六歳の頃。
メイドとして働くことになった母と、四つ下の妹と共にやってきた。
母が働いている間、ハルはかいがいしく妹の面倒を見ていた。平和な毎日が続く中、妹の四歳の誕生日に、近くの公園に妹を連れ出した。
はしゃぐ妹を見守るハルの目の前を、ひらひらと美しい蝶々が横切った。
――――――ほんの一瞬のつもりだった。
蝶々を追って、妹から目を離した。
ハルの小さな手ではとても蝶々は捕まえられず、すり抜けて飛び立った。ハッと我に返って妹の姿を探したが、そこに妹の姿は無く――――
妹は、それきり戻って来ることは無かった。
ハルの母はハルを責めることなどしなかった。
ただただ少しずつ少しずつ、ハルもその母も精神の奥底を蝕まれていった。
一年後、ハルが9歳の時にハルの母は病死した。
ハルは行く当てもなく、9歳でメイドとしてここで働くことになったのだ。