第30章 公爵
私はゆっくりと身体を起こして泣きはらした目でダミアンさんを見た。
「はは、まるで叱られた幼子のようですね。」
「…………。」
温めなおされた料理が並び、ダミアンさんに椅子を引かれた。ハンカチで目元を時折押さえながら、食卓についた。
「意地を張らずに、食べましょう。」
私は少し考えたのち、食事に手をつけた。
食事の途中に、ダミアンさんが話を始める。
「美味しいですか?」
「………はい。」
「それは良かった。」
それ以上のこれといった会話はなされないまま、食事の時間は静かに進んでいった。コーヒーを口に運びながら、ダミアンさんは言った。
「………ロイ君を止められるのは、救えるのは、ナナさんしかいないと思うのです。」
「…………。」
「先にも言いましたが、彼は今のままでは危険だ。どうかよろしくお願いします。」
「………なぜ、ダミアンさんは、ロイのことを気にかけて下さっているのですか………?」
「―――――彼がこの国をひっくり返してしまいそうな、そんな気がするからです。」
「…………。」
ロイが言った言葉が思い出される。
“この国を内側から壊してやる。だから姉さん、僕と一緒に終わらそうよ、このくだらない世界を。”
そうだ。あの日、ロイ中の狂気を感じ取った。ハルに何をしているのか、そして政に入り込んで何をしようとしているのか―――――――私はそれを確かめるために来たんだ。奇しくも、ダミアンさんにそれを思い返させてもらう結果となった。
「私が―――――なんとかします。姉として………。」
「頼みます。」