第30章 公爵
「――――――ほらまた、あなたの本当の顔が見えた。」
「…………や、めて、ください………!」
「………泣き落としを学んだようですね。」
「調査兵団には、なにも………っ……しないで………!」
「――――――オーウェンズは……ロイ君は潰れても良くて、調査兵団は守りたいのですか?」
ダミアンさんの言葉に、ハッとする。
「………ロイ君が、壊れるわけだ――――――。」
「―――――――!!」
ロイをあんな風にしたのは、私だ。
一番不安定な時に、一番心が繊細な弟を省みず、私利私欲にまみれた環境に置き去りにした。
今それが自分に、ハルに返って来ている。
私が調査兵団で温かい仲間と笑い合っていたとき、ロイは?信じられる人が側にいただろうか。
弱い部分を見せられる相手が、いただろうか。
私は声を出して泣いていた。
ロイがあまりに可哀想で。
自分が情けなくて、姉として不甲斐なくて。
そんな私に何をするでもなく、ダミアンさんはベッドに腰かけたまま私を見ていた。
「―――――……それは、ロイ君のための涙ですか?」
私は静かに頷いた。
「………そうですか。」
ダミアンさんの手が私の髪に触れると、ビクッと反射的に身体が強張った。
「さすがに涙を流す女性に対して、なにもしませんよ。」
その指はゆっくりと私の髪を梳き、撫でる。私の嗚咽が少し落ち着いた頃、ダミアンさんの唇がまた手の甲に寄せられた。
「――――食事を温め直させよう。食べて、ちゃんと考えるといい。これからあなたがどうすべきか。」
「…………。」