第30章 公爵
「…………私の周りは、本心で向き合える人ばかりで、そういったことを身につける必要がなかったもので。」
「………ほら、またカッとなった。可愛いですね。―――――黙らせたくなる。」
その言葉に一瞬肩が震えた。
そうだ、密室で二人きりで、リヴァイさんにいつも怒られていたんだ。煽るな、と。
「今度は少し怖くなったのかな。いいですね、張り付けられた仮面がはがれて、いろんな感情が見えて来るのは実に嬉しい。―――――今夜一晩かけて、どれほどのあなたを見つけることができるのか、楽しみですよ。」
「こんなことで、私の気持ちがあなたに向くとお思いですか?」
「いえ?」
ダミアンさんは不敵に笑う。
弟と共謀して監禁するなど、とても愛する女性にする仕打ちとは思えない。
私の知る愛の表し方はもっと、実直で熱くて、胸が焦がれるようなものだ。
「ナナさんは、人の気持ちを手に入れる手段が、本人に愛されることだけだと思っているんですね。実に………可愛らしい。」
その言葉に私は我慢ならず、テーブルにバンッと手をついて立ち上がった。
「―――――人を馬鹿にするのがお上手ですね。……やってみればいい。私はあなたに屈しない。」
私の反応に、くすりと小さな笑みを零してダミアンさんが立ち上がる。徐々に距離を詰められ、後ずさりしそうな怯える気持ちを必死に隠した。目を逸らせてたまるもんか。屈しない、絶対に。
至近距離でそのグリーンの瞳の奥を睨むように見上げる。