第30章 公爵
「私を家に帰してください。」
「―――――それはできない相談ですね。今夜は帰さなくていいと言われていますし。」
「ロイに、ですか。」
「はい。」
「――――――あなたは、脅威だ、怖い人間だと言っていたにも関わらず己の利益のためならロイとでも組むのですね。――――――一体何が真実なのやら。ますます信用なりませんね。」
「辛辣だな。」
「よく言われます。」
ダミアンさんはははっと笑った。
「―――――ナナさんは思ったより、ずっと幼い。」
「………っ………!」
私はカッとなった。
冷静に振る舞っていたつもりだったのに、ばれていたのだろうか。この心の内が。怖い、助けて、リヴァイさん、エルヴィン団長―――――――心の中で何度も子供のようにそう叫びたいのを押さえつけて、仮面のような表情を張り付けてここに座っている。
「――――――その幼い女に執着しているのは、どちら様でしょう?」
「ふふ、そうですね。私も人のことが言えた義理じゃない。だけど、人のタイプによってふるまいを選べないあなたは本当に子供だ。僕にその辛辣な態度をとっても、無意味だと思いませんか。」
「…………。」
「僕のようなタイプには、まだ泣き落としのほうが有効なのに………そんな世渡り術は、弟君のほうがよっぽど長けていますね。」