第30章 公爵
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窓からはさすがに逃げられない。ここは三階だ。
私はどうにかしてこの屋敷から逃げることを考え、部屋の中をくまなく調べたが、どうやら物理的に一人で脱出するのは困難だ。落ち着かずにうろうろしていると、部屋の扉がノックされた。
「―――――ナナ様、ご夕食をお持ちしました。」
夕食?そんなもの食べられる状況じゃない。
とは思ったものの、扉が開かれて誰かが入って来るのは好都合だ。脱出の機会に繋がる何かを得られるかもしれない。
「――――――はい。どうぞ。」
開錠される音と共に、使用人が夕食をワゴンで運んできた。肉や魚がふんだんに使われた、なんとも豪勢な食事だ。なぜか、一人分にしては量が多い………と思っていると、使用人の後ろにラフな服装に着替えたダミアンさんが見えた。
「夕食は一緒に取りましょう。僕も一人の夕食は飽き飽きしていたところだったので。」
にっこりと笑うその笑顔に愛想笑いすら返せるはずもなく、じとっとした冷ややかな目線を送った。やがて使用人はテーブルに食事を並べ終えると、部屋を去って行った。ダミアンさんがいなければ、話し掛けてなんとか懐柔を試みようと思ったのに………。
「さぁ、食べましょう。」
「―――――――。」
言われるがまま席には着いた。
「食べないのですか?」
「こんな状況で、食べる気になるわけがないでしょう。」
「それは残念。」
ダミアンさんは薄く笑ってワインを傾け、食事を始めた。