第30章 公爵
「別に僕が姉さんをぐちゃぐちゃにしても良かったんだよ?ただお楽しみは先に取っておこうと思って。―――――ライオネル公爵にその役目を譲ったことを褒めて欲しいくらいだよ。」
「―――――――あなたは狂ってる………!」
「―――――――そう、狂ってるのかもね。じゃあさ、僕をそんな風にしたのは、誰―――――?」
ロイは両手でハルの首をギリ、と締めた。
ハルは力なく震える手でそれを制そうとするが、彼女の手には力が入らない。
「だから償ってるんだよね?僕に盾突く前に、自分の立場をわきまえなきゃ。じゃなきゃ、このまま殺しちゃうよ?」
「く、っ………はっ……………!」
感情のない表情でハルの首を絞める手に力が籠る。
「―――――あぁいけない。僕が殺してしまったら意味がないんだった。」
ロイが手を離すと、ハルはせき込みながら力なくベッドに倒れ込んだ。
「―――――おやすみハル。明日もまた、生きていられるよう祈っているよ。」
ロイが部屋を出た後、涙ながらにハルは考えた。
いっそ自分が死ねばナナはこんな家など捨てて、愛する人の元に行けるのではないか。家族として機能していないこの家に、無理やり縛り付けているのは私という存在なのではないか――――――。
妹同然に、娘同然に過ごして来たナナを守る術が、これ以外に考えられなかった。
ハルは震える手で枕元の紙袋から錠剤を取り出し、口に運んだ。