第30章 公爵
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「―――――ねぇハル。今日の分は、ちゃんと飲んだ?」
「………飲み、ました。」
「いい子だね。そして、今日もまた生きていられたね………本当、良かったね?」
「………ロイ、さま………!」
ハルはロイに縋りつくように腕を掴んだ。
「お嬢様が、ナナお嬢様がお戻りでないのです………!どうか、どうかライオネル邸に迎えを………!」
「―――――ダメだよ。」
「…………なぜ…………。」
ロイは無邪気に歪んだ笑みを見せる。
「家を、僕を簡単に捨てるような姉さんには思い知らせてやらなくちゃ。――――――綺麗なお人形を一晩、公爵に貸したんだ。さて、お人形はどうなるのかな?楽しみだね。」
「――――――――なんてことを………!」
「ん?」
「お嬢様には、愛し愛されている方がいらっしゃるのですよ?!?!」
ハルが嫌悪と怒りを込めた表情でロイを睨み付けた。
だがロイは全く動じることもなく、笑顔を崩さないまま冷たい声色で言った。
「―――――だからじゃないか。」
「……………っ………!」
「知ってるよ。僕の小さなお人形がそれも教えてくれた。まるで運命の相手のように愛し合っている人がいるんでしょ?その人に顔を合わせられないことになったら、調査兵団に戻る意味のうち一つくらい潰せるかなって思ってさ。」
ロイは悪びれる様子もなく無邪気さすらたたえた顔で笑う。