第30章 公爵
「単刀直入に言いますが、僕のところへ、ライオネル家に来るつもりはありませんか。」
「――――――――。」
誠実な眼差しだ。
きっと彼は私を利用したりするためにこんなことを言っているわけではないのだろう。でも、私には考えられない提案だ。今の私に、調査兵団以外の居場所など考えられないのだから。
「私には――――――」
「私には勿体なくて。」
私の言葉に重ねるようにして、その先を制される。
「―――――そんな建前を聞きたいわけじゃないんです。」
「……………。」
「僕はあなたが好きだ。あなたとこの先の人生を共に過ごしたい。妻にするなら、あなた以外考えられない。」
「………私は、あなたの事をよく知りません。」
「たった一度や二度あった程度の男のことなんて考えられないのはわかっています。そんな程度で結婚を即決するのは、僕自身じゃなくライオネル家との結婚をしたい女性だと相場は決まっている。だが、あなたはそうじゃない。そんなあなただから欲しいのです。」
「―――――愛している人がいます。」
私はダミアンさんの目を見て、きっぱりと言い切った。
「―――――奇遇ですね、僕も愛している人がいます。――――――あなただ。」
動じることなく返されるその自信とセンスは、エルヴィン団長を思わせる。
大人の男性なのだということを思い知った。
「――――――正攻法で手に入れられるとは思っていない。僕もそれなりに悪知恵は働かせるタイプなんですよ。」