第30章 公爵
「………おやめください、公爵ともあろう方がそんな……身に余って困ってしまいます……。」
「ずっと、あなたを忘れられなかった。」
深いグリーンの瞳が真っすぐに私を映す。私はさっと使用人のほうへ目線をやった。
「お茶をお出しして。」
「はい。」
「ライオネル公爵、どうぞおかけくださいませ。」
話を逸らすようにソファへと誘い、使用人たちを人払いした。
紅茶の香しい湯気がのぼる。先に口を開いたのは、ダミアンさんだった。
「調査兵団に入られたと聞いたときは驚きました。」
「そう、でしょうね………。」
「………兵団での暮らしはどうでしたか?」
「………とても心地良く、仲間と共に毎日が充実しています。人類の為に命を懸けて戦う彼らは、私の誇りです。」
ダミアンさんの使う過去形の言葉を打ち消すように、私の心は調査兵団にあることを強調する。
「一度の調査で、たくさんの兵が亡くなるとか………。」
「はい。それを少しでも軽減させ、いつか人類を巨人という脅威から解放することが、私のいる意味だと思っています。」
「―――――そうですか。」
「…………。」