第29章 罠
「――――――え………これは………――――――。」
呆然とする私に、ロイが近づいて耳打ちをする。
「――――ねぇ、どうしたの?それ、何かわかったんでしょ?」
「…………。」
あの状況から、絶対に間違っていないと思った。
でも結果、私は絶対に間違ってはいけない間違いを犯した。
「それ、何だった?」
「――――――ただの、ビタミン……剤………。」
「―――――僕、傷ついたよ?」
いつも見下げるところにあったロイの目は知らぬ間に見上げる高さにあり、簡単にその腕に捕われ、私の首は細い指でギリ、と締められる。
「――――――その罪、どうやって償ってくれる?」
ロイの目は私と同じ、深い紺色をしている。
深い闇の色だ。
罪、とはどの罪だろう。
ロイを疑った罪?ロイを、お父様を、ハルを捨てて自分の夢に賭けた罪?
私は重い重い鎖が身体にまとわりついていくような、言い知れぬ感覚に苛まれた。
「――――――まさかこのまま、ハルを見殺しにして、帰るなんて言わないよね?育ててくれたハルを。姉さんを守って、夢を尊重して応援してくれた一番の理解者を。医者として、家族として見殺しにするなんて、できないよね?」
ロイの言葉に支配される。
帰れない。
ハルを治すまでは、絶対に。
ごめんなさい――――――エルヴィン団長、リヴァイさん……ハンジさん…リンファ……私はまだ帰れない。