第29章 罠
馬を走らせ、どれくらい経っただろう。
いくつもの荒廃した町を過ぎ、ウォール・シーナの門をくぐった。久しぶりに見る王都は、ウォール・ローゼの敷地内の荒みようとはうって変わって、私がいたころの煌びやかさをそのままに維持していた。
エルヴィン団長の言葉が頭を過る。
“私は君よりもよく知っているだけなんだ。………この国の中枢が、保身と都合のためなら、いくらでも人を犠牲にすることを厭わない人間ばかりだということを―――――――――”
この煌びやかさの裏に何があるのか、犠牲になっているものはなんなのか。王都で生まれ育った私にとって、考えたこともなかったことだった。
私は複雑な思いを胸に、生家へと向かった。
「―――――お嬢様?!」
しばらくの帰還に、使用人たちも驚いた様子だった。
「ハルはどこ?」
「自室で休んでおります。」
私はハルの元に駆けた。
心臓がばくばくと強く早く打つ。
ハルの部屋の扉を、弾んだ息を整えて静かに叩いた。
「――――――――はい………。」
掠れるような、力の無い声。あぁ、あの手紙が、私を呼び戻すためのロイの嘘であればどんなに良かっただろう。
「ナナよ。戻ったわ、ハル。」
「――――――お嬢、さま………?」