第29章 罠
――――――この人もまた、毒だ――――――――。
リヴァイさんの発する仄暗く、魅惑的で煽情的な毒とはまた違う、甘くて、官能的で、内に秘めた熱情で、引きずり込まれそうになる。
一度身体に含んでしまえば、きっと逃れられない。
私の中の本能のようなものが、強く警告音を発した気がした。
「帰っておいで、必ず。」
真っ赤になった顔で振り返った先には、今までにみたことのないエルヴィン団長がいた。
私は、文句のひとつも言えずに静かに頷いた。
リヴァイさんは、見送りには来なかった。
それでいい、離れがたくなってしまうから。
見送らないで欲しいと昨晩私からお願いをした。
出立するときにふとリヴァイさんの執務室を見上げると、彼の姿があった。ここに来てから、数日だって離れることはなかった。
いつも目で追って、恋い焦がれて――――――わずかに思い出を反芻しながら、リヴァイさんに背を向けた。