第28章 密偵
エミリーはそれから思い出を蘇らせているかのように沢山話してくれた。
訓練兵の時代に、休暇の度にロイと会っていたこと。
やがて、姉が調査兵団にいるが心配でならない、という彼が弱みを見せてくれるようになったこと。
自分ができることは、調査兵団に入って、姉である私の様子を報告し続けることだと使命感を持っていたこと。
奪還作戦に私が出陣することだけは、ロイのためにどんな手段を使ってでも阻止しようと思ってしまったこと。
「―――――もし、もしナナさんの心が傷ついたら、エルヴィン団長もリヴァイ兵長も、考えが変わるかもしれないと………そう思って、あの日――――――。」
「鍵を、かけちゃったんだね。」
エミリーは涙を拭いながら黙って頷いた。
「でも私、今更ですが、気付いたんです。ロイ君のナナさんへの想いの強さは、尋常じゃない。それほどまでに大切な人を傷付けられて、果たして本当に彼は喜ぶのかなって………。いつの間にか私は、ロイ君のためじゃなく、ロイ君に好かれたいという自分の都合で――――――ナナさんに、とんでもないことを………!」
エミリーは再び私に向き直り、大粒の涙を零して頭を下げた。
「ごめんなさいっ………!」
私はエミリーを優しく抱きしめた。
「………話してくれて、ありがとう。」
「うっ………うぅぅ………っ………!ごめ、なさい……っ……!」
一生懸命だったんだ。
愛しい人に愛されたい。その気持ちは人を狂わせる。
でも、エミリーはこうして自分の事を省みて、話して謝ってくれた。間違わない人なんていないんだ。エミリーのこの純真さをロイは利用した。それが私は許せなかった。
もしロイが私を求めているなら。
愛ではなく憎しみの対象だとしても私が弟の人生を左右してしまうほどの存在なのなら、好都合だ。私が絶対にロイを変えてみせる。
そう、私には人を変える力があると、信頼している友から背中を押してもらえたんだから。
きっと大丈夫。