第28章 密偵
「………1年と少し前、私が訓練兵だった頃です………休暇で家に戻ったとき、弟が急に苦しみだして………。父も母も仕入れ先に行っていて不在で、小さな病院はどこも休みで―――――私はどうすることもできなくて………ダメで元々のつもりで、オーウェンズ病院に弟を連れて行ったんです。」
「…………。」
「貴族や裕福な人たちが利用する病院で、私たちは明らかに異質で――――――、受付で門前払いを食らってしまって………苦しむ弟を背負って絶望していたら、彼が―――――――ロイ君が話を通してくれたおかげで………弟は助かりました。」
ロイが、そんなことを―――――――ビジネスとしてではない、人の心の通った医師であることがわかって、私は不謹慎にも嬉しかった。
「治療費もいらないと――――――本来なら家で払えるようなものではなかったので、………弟だけでなく、家族が救われたんです。」
「それ以降も、繋がりが?」
「はい、せめてものお礼に、花を届けたんです。ロイ君に…………そしたら、驚いた顔をして、そのあと、笑ってくれて。なんて……なんて綺麗で、素敵な人なんだろう……って。気付いたら、もう恋に落ちていました………。」
「……そうなんだ……。」