第1章 出会
「あ?誰だ、そいつ。」
小さな人影はほんの少しこちらを振り向きかけ、その横顔からピンク色の唇が見えた。その唇はぎゅっと口角を下げ、次の瞬間、そいつは手元にあった分厚い本を閉じ、じじぃに押し付けてからガタッと席を跳ね除けて俺の横を通り過ぎた。
「ワーナーさん、また来るね!」
去り際に残した声から、まだ小せぇガキだとわかった。しかも女だ。
俺の横をすり抜けたとき、そのフードからふわりと石鹸の香りとともに、嗅いだことのない心地よい香りが鼻先をかすめた。
「………。」
しばらくそのガキの行く先を見つめていると、じじぃが声をかけてきた。
「どうした。なにか用があったのだろう?」
じじぃはガキが閉じた分厚い本にボロボロの紙を巻きつけ、戸棚の奥の床板を外し、それを入念に隠すように片付けた。
「……いや、別に用はねぇよ。それより、あいつは誰だ?」
「そうだな……じじぃの話し相手……とでも言っておこうか。」
「フン………。」
俺は納得していない表情のまま、ガキが座っていた椅子に腰かけた。
「そうだ、いいものがある。」
じじぃはそう言うと、質素なキッチンに立った。湯を沸かしながら、なにか銀色の小さな包みを開けている。
「いいもの?」
「ああ、今淹れてやる。少し待て。」