第28章 密偵
「…………彼、とは誰かな?」
「…………。」
「ロイ・オーウェンズ。違うか?君が調整日ごとに手紙を投函している相手は。」
「――――――。」
エミリーが軽く天を仰いで、何かを想った。おそらくその彼のことを。
「私の、役目は………第一として奪還作戦にナナさんを出さないようにすること。そして、ナナさんを取り戻すための情報を集めて………ロイ君に報告することでした………。」
「――――――――彼と出会ったのは調査兵団に入ってからか?入る前か?」
「―――――入る前です。訓練兵の時に。」
「まさか、その役割を担うために調査兵団を選んだのか?」
「そうです。」
迷いない解答に感心すらした。もう一つ、ロイがナナが調査兵団に入った時から密偵を育てていたということにも。
「――――――でも、もうダメです。私がなに一つうまくできなくて……最後の手紙を出してから、もう連絡も来なくなってしまった。」
絶望に似た表情で、涙をただただ零している。だが、感傷に浸っても罪は罪だ。
「――――――隊の編成など、内情を漏えいしたことは間違いなく規則に反する。罰せられる行為だぞ。」
「わかっています。仰せのままに、罰は受けます。」
「―――――ナナにこのことは伝えても?」
「―――――できるなら、自分の口から……伝えたいです………。ちゃんと…謝りたい……。」
「それは、ダンに襲われていることをわかっていて、屋上の扉に鍵をかけたことについてか?」
「―――――そうです。」