第28章 密偵
「まず、聞こう。ここに呼ばれた理由がわかるか?」
「…………いえ…………。」
「私は、君を密偵だと思っている。」
「――――――――。」
目を見開いて俯き、黙り込む。それは肯定と同じだ。
「なん………の………根拠があって、そんなことを……仰るのか……わかりません……。」
「―――――なぜお前がナナの誕生日を知っている?」
リヴァイが腕を組んだままエミリーに問う。
「――――――――。」
「あいつは、自分の誕生日を忘れる奴だ。もちろん自分から誰にも話していない。この団長室の中の一部の資料にしか記されていないはずのことを、なぜお前が知っている?」
「………さぁ、噂で……聞いただけなので………。」
「その噂の出どころがそもそもお前だということはわかってる。無駄な弁明だ。」
「……………。」
「君の視線は、不自然なくらいナナを追ってる。―――――だが、完全な悪意の視線じゃない。憧れと、もどかしさと、責任感といったところか。まるで監視役だ。」
「………っ………。」
あと、もうひと押しでボロが出る。
「それと、ナナが出陣することを外部に漏らしたな?手紙でのやりとりも把握している。おおよそ、あの彼の幼稚な意地に付き合わされているのだろう。こんな幼気な少女を使うとは、まったく人間性を疑う――――――――」
「………彼は幼稚でもないし、素晴らしい人です!私が、ただ私が―――――――――!!」
エミリーは目を合わせないまま、視線を落としてハッと我に返った。