第3章 岐路
俺の頬に滴が落ちる。雨が降り始めた。
それはすぐに豪雨になり、信煙弾も使い物にならない。俺はこの雨に乗じて、エルヴィンの元へ行く決意をした。
奴を、殺すために。
イザベルとファーランを本体へと戻らせ、俺はエルヴィンのいる隊の方角を目指した。
視界がほとんどない中、俺は嫌な臭いで周囲の異変に気付く。
血の匂いだ。
馬を止め、周りを見回すと、数えきれない程の兵士の死体が転がっていた。
そしてその屍を積み上げたであろう巨人の足あとが、今まさに自分が駆けてきた方向へ続いているのが見えた。
「………っ!!すれ違ったのか……?!」
イザベルとファーランの顔が頭によぎる。
なぜ俺は、あいつらと離れた?
離れるべきではなかった。
生まれて初めて、背筋が凍る感覚を味わった。
必死で馬を走らせた。視界はほぼ0だった。
どこから巨人が現れてもおかしくない。
全神経を研ぎ澄ませる。
その時、がくん、と体制が崩れた。
馬が足をとられたようだった。俺は転倒した馬から飛び降り、ぬかるんだ地面に降り立つ。
歩き出そうと踏み出した右足に、何かが当たった感触がした。
そこには、見慣れた赤毛が見えた。
眼を見開いたまま、体を亡くしたイザベルの頭が、転がっていた。
「―――――――――!!!!」
一瞬、俺の世界は無音になった。
雨の音も、
風の音も、
目の前でファーランを貪る巨人の唸り声さえも、聞こえなかった。
そこから先は、よく覚えていない。
ただただ憎悪に任せて、巨人を切り刻んだ。
その感触だけが、残っていた。
巨人の死体が蒸発していく。辺りに残るのは、無残な人間の死体と血の海だった。
「………生き残ったのは、お前だけか。」
エルヴィンの声が聞こえた瞬間、俺は奴に飛びかかり、首筋に刃を突き付けた。
「お前を殺す………!そのために、ここにいる………!」
その言葉を聞いたエルヴィンは、胸元から封書を取り出し、投げ捨てた。
「封書は偽物だ。本物はザックレー総統に届けた。お前たちをけしかけたロヴォフは、もう終わりだ。」