第28章 密偵
「王都まで遠いが、一人で帰れるか?」
「―――――――!!」
そんな私の頭の中を見透かしたように、温情のこもった言葉をかけてくださる。
「帰りたいんだろう。」
「……はい、……でも………。」
「………いや、違うな。」
「…………?」
「君の居場所はここだ。―――――だから、一人で、行けるか?そして帰って来られるか?ナナ。」
「――――――はい…………!」
なぜこの人は、そこまで人の欲しい言葉がわかるのだろう。まるで魔法のようだ。
思わず滲む涙を手で拭い、エルヴィン団長に向き合う。
「ご迷惑にならないよう、不在にする分の執務は必ず済ませてから参ります。」
「頼もしいな。だが無理せず、早く出立できるようにしなさい。明日には発つといい。」
「…………そんな、申し訳、なくて………。」
「この借りは、帰ってから返してもらうよ。――――――たっぷりとね。」
エルヴィン団長が悪戯に笑う。
この少年のような表情は、リヴァイさんやハンジさん、側近の人たちにしか見せない表情だ。その中に私が含まれていることが、嬉しい。
私は大きく礼をした。顔を上げると、あぁ、とエルヴィン団長が何か思いついた顔をした。
「そうだ、一つだけ君に聞いておきたいことがあったんだ。」
「はい。」