第28章 密偵
奪還作戦まであと一ヶ月。
あれから不穏な出来事はまるでなくなり、私は忙しい毎日を過ごしていた。団長室で調査兵団に届いた書類や手紙の仕分けをしていると、上質な紙で作られ、オーウェンズの封蝋がされている封筒を見つけた。
私宛だ。
「――――――ロイ………。」
その封筒には、大きく“速達”と文字が書かれている。奪還作戦に関わるようなこともありうる。私は封筒を開いて目を通すと、その内容に目を疑った。
「―――――ん?ナナ、どうした?」
私の異変にいち早く気づいたエルヴィン団長から声がかかる。
「あ、いえ、あの…………。」
「どうした。様子が変だ。………弟君からの手紙に、何か書いてあったのか?」
「――――――私を育ててくれた、世話係が………病気に伏したと………余命幾何もないかも、しれないと………。」
「それは大変だ。」
「すみません、執務とは関係ない話ですので忘れてください。」
平然を装いつつ、動悸が激しくなっていく。なぜ、ハルが――――――??どうなっているの。本当に?会いたい、ハルに。本当なのなら、私が治してみせるのに―――――――
「………育ててくれた、というなら、もはや家族同然なのではないか?………とても大丈夫じゃないだろう。無理をするな。」
「…………っ…………。」
エルヴィン団長の心遣いに泣きそうになる。
そう、ハルは家族だ。父や、もしかしたら母よりも一緒に過ごしてきた、唯一無二の存在。会いたい。
でも、王都に一日やそこらで帰れるものでもない。この忙しい時に何日も私が抜けるとエルヴィン団長にも迷惑がかかってしまう。