第25章 悪巧
私はすぐに団長室を立ち去った。
扉を開けて廊下に出た瞬間、ギクッとした。
壁にもたれて、腕を組んで目を細めているのは………いつも会いたくてたまらないはずの彼に、今、最も会いたくなかった。
「……リヴァイ、兵士長……。」
「エルヴィンには、どうやらお前が鳥に見えてるらしいな?」
「………。」
「………イライラするな、その恰好は。」
どう、言えばいいのだろう。知られたくない。
もし下手なことを言ってしまったら――――――あの時みたいに、リヴァイさんはダンさんを許さない。
私のせいでリヴァイさんが人を殺してしまうのではないかという恐怖は、何よりも耐えがたく、私にとっては避けたいことだった。
あれこれ考えているうちに、伏せていた視界にリヴァイさんの足元が映る。
グイッと乱暴に肩を掴まれた時、少しリヴァイさんが躊躇した。
「――――――怪我、してるじゃねぇか。」
「あ……はい、いえ……大したことはなくて………。」
「部屋に来い。」
リヴァイさんが私の手を引いた。私は思わず首を横に振った。
「………あ?なんだその反抗は。」
「大丈夫、です。」
「大丈夫じゃねぇだろ。」
「大丈夫、です。」
「………ちっ…………。」
力づくで引き寄せられ、顎をすくわれる。
「――――俺が大丈夫じゃねぇよ。来い。吐かせてやる。お前を傷付けたのが誰か。」
私はさらに力を込めて首を横に振った。
「お願い、します。部屋に、帰らせて…………。」
言えない。
言いたくない。
怖い。
リヴァイさんがダンさんに制裁を下すのも、またこんな事を引き起こして呆れられるのも。
―――――多少なりとも私は弱っていたのかもしれない。
頬に一筋の涙が落ち、リヴァイさんは目を見開いたあと、やるせなさを含んだ目を伏せて私の手を離した。
私はリヴァイさんに背を向けて、走り去った。