第25章 悪巧
「――――――何か、されたのか。」
「いえ、未遂です。屋上から飛び降りて、逃げて来ました……エルヴィン団長が引き上げて下さらなかったらと思うと……ありがとう、ございます。」
気丈に事のあらましを端的に報告するナナの身体は、ガタガタと震えている。
思わずその身体を強く抱きしめていた。
「――――――無茶をする……が、良く逃げた。偉かったな。」
そう囁いて頭を撫でると、ナナはホッとしたように私のシャツを少し掴み、身体を預けた。
その時、部屋の扉をノックする音が鳴る。
「――――――おいエルヴィン。なにかあったのか。……すげぇ音がしたが。」
リヴァイだ。さすがにガラスの割れる音が聞こえたのだろう。
ナナがその声に反応し、パッと顔を上げた。
だがその表情は眉がさがり、どうしよう、といった困惑の表情だ。
「――――――あぁすまない。何でもない。鳥がぶつかったのかな、窓ガラスが少し破損しただけだ。」
私は扉を隔てたまま返事をした。
「………ちっ………ならいい………。」
足音が遠ざかった。ナナの顔が、とたんに安堵した表情に変わる。そしてハッとしたように私の方を見た。
「……!エルヴィン団長……!手が……っ……!」
「ん?………ああ。」
割れたガラスの窓枠を掴んで力づくで外した時にガラスの破片が刺さったのだろう。両手の掌は少しの血がついていた。
ナナは慌てて私の手をとり、心配そうにくまなく目を凝らす。
破片が刺さっていないのかどうかを確認しているようだ。
少しして、自らのハンカチを二つに割いて、私の両手に結んだ。