第3章 岐路
「待っていたよ、ナナ。ああ、本当にお母さんにそっくりだ。」
にこやかに笑うイェーガー先生に、私は深々と頭を下げた。
「イェーガー先生。厚かましいお願いを聞き届けてくださり、言葉もありません。」
「いやいや、こちらこそ。本当に助かるよ。ああ、こちらは妻のカルラ。そして息子のエレンと、ミカサだ。」
「奥様。本日よりお世話になります。至らない事も多いかもしれませんが……」
私が奥様に慌てて頭を下げると、その言葉を遮って明るい声が飛んできた。
「かしこまらなくていいのよ!うちだって助かるんだから!!困ったことは、なんでも言ってね、ナナ。」
「はい……!」
長い黒髪の、笑顔の優しい女性だ。
カルラさんの横で、気まずそうにしている男の子に向かって、膝を折って挨拶をした。
「君がエレン君?初めまして。ナナ・オーウェンズです。」
「は、はじめまして。」
まっすぐで正義感の強そうな男の子だ。
エレンは私を見ると頬を赤くし、目を逸らしながらもあいさつをしてくれる。
その様子を、眉間にしわを寄せてじとっと見つめる女の子。
「この子はミカサ。わけあって、家族になった子よ。」
イェーガー先生の奥さん、カルラさんが紹介してくれる。
「はじめまして、ミカサさん。ナナ・オーウェンズです。よろしくね。」
笑顔で目線を合わせると、表情を変えないままミカサはよろしく、とつぶやいた。
温かな家庭に触れながら医療に携われる環境は、私にとって何よりも尊い経験となった。イェーガー先生を信頼して、毎日のようにたくさんの患者が訪れる。
毎日くたくたになるほど働いたが、王都の中では味わったことのない充実感を感じていた。