第25章 悪巧
「あぁそうそう、医療班の子だ。」
ダンさんは愛想良く笑って近づき、エミリーの頭をポンポンと撫でる。
「そういえば、ナナさんに話したいことがあるんだけどな。」
「はい、なんでしょう?」
「んーーーーーー。」
彼は顎に手を当てて、チラリとエミリーの方を見た。
「ちょっとお嬢ちゃんの前では言いづらいな。」
「じゃあ、外しますよ。ナナさん、また明日……話せて、嬉しかったです。」
ダンさんの言葉を受けて、エミリーはパタパタと扉の方へ歩き出し、兵舎の中に戻ってしまった。
何か言いかけていたのは、何だったのだろう―――――なにか大事な事を言おうとしていた、そんな気がしたのに。
その気持ちを抑えきれず、少し冷ややかな目をダンさんに向ける。
「話って、なんですか?」
「あぁ―――――――。」
ダンさんは長身のその身体をかがめて、満面の笑みで私の顔を覗き込んだ。身体を屈めた拍子に、その色気を形にしたようなシルバーのネックレスが胸元で鈍色に光る。
「ナナさんは、誰にでも簡単にヤらせてくれるって、本当?」
「は………?」
想像もしていなかった言葉をかけられ、混乱で取り乱してしまう。
……でも、あの一件から何も学んでないわけじゃない。とりあえず、逃げなければ。
私は駆け出して、兵舎の扉に手をかけた。その時―――――――
ガチャ
内側から金属音がした。誰かが、内側から鍵をかけた―――――――
「な、んで……?!」
扉をガタガタと揺らしてみても、ビクともしない。
そうしているうちに、ゆっくりとダンさんが背後からその距離を詰める。やがてダンさんの大きな手が伸び、私は扉を背にその両腕でいとも簡単に囲い込まれてしまう。