第3章 岐路
「雇い主の事を悪く言うことは、許されませんが!!お嬢様の事をなんだと思っているのでしょう?!」
入浴後の私の濡れた髪を乾かしながら、ハルが、鼻息を荒くして怒っていた。
「さぁ………お人形とでも思っているんじゃない?」
「わたくし、さすがにぶん殴ってやろうかと思いましたわ!!」
ハルのその怒りもまた、私にとっては嬉しかった。
ハルは私が外の世界ハルの憧れを抱いている事を知ってから、危険だから、諦めて欲しいと懇願してきた。
だけど、それだけはいくらハルの頼みでも聞けなかった。
私の頑固さにハルもとうとう折れ、今では時折小言を言うくらいで、基本的に私の夢のために何かと協力してくれる。
「そもそも結婚なんて、早すぎます!!それに、いくら貴族だからって、何かあった時にお嬢様を守れるのかしら?もし壁の外から巨人が攻め込んで来たら、名誉もお金もなんの役にも立たないっていうのに。」
以前のハルなら、『壁の外』なんて発想はなかっただろう。明らかに私の影響だ。
「確かにそうだね……。私も、自分の身は自分で守れるようになった方がいいよね……。戦えたら、医療班として、調査兵団にくっついて壁の外にも出られるかもしれないしね!」
「お嬢様。なぜお嬢様が戦うという選択肢が出て来るのです?こんな傷一つない柔肌で戦う気ですか。わたくしが探して差し上げます。どんな時でもお嬢様を守ってくださる方を。」
ハルが使命感に燃えている。
「お嬢様のそばにいる方は、世界で最も強いナイトでなきゃダメなのです!」
「世界最強って………いないでしょそんな人。嫌だよ、力しか取り柄のない人なんて。」
そういって、二人で笑いあった。
髪が渇き、就寝前の紅茶を淹れ、ハルはおやすみなさい、と部屋を出て行った。