第3章 岐路
「娘の年齢を知らんと思うのか。承知の上だ。」
「私は……医学大学を卒業し医師の資格も取りました!今からやっと、医療の現場で役に立てるのです!それを、嫁げと?!」
思わず私の口調も荒くなる。
どこまでも女を馬鹿にする男だ。
腹立たしいにもほどがある。母が愛想を尽かすのも頷ける……と、さすがにそこまでは言わなかったが。
「嫁ぎ先が了承くださるのなら、分院を建ててやってもいい。そこでお医者さんごっこでもすれば良い。」
―――――――無理だ。話にならない。
本当に一度、ぶん殴ってやろうかと思ったその時、父の背後から声がした。
「父さんともあろう方が、なんの冗談です?そんな愚かなこと、しないですよね?」
ロイがくすっと笑った。
「姉さんは史上最年少で医学大学を卒業し、最年少で医師になられたのですよ。そんな逸材を、まさかそこらの女性と同じようにただ嫁がせようだなんて……愚か以外のなにものでもない。オーウェイズ家の生んだ天才として、このまま医療のあらゆる分野でその功績を残して頂くのが賢明でしょう?もっとも……僕がそれに続くことができれば尚良いのですが……。姉さんのように飛び級なんてできそうになく……面目ないと思っています。」
私より少し暗い色合いのプラチナブロンドに、端正な顔立ち。その完璧な容姿で、自嘲気味に目を伏せた。
「おおロイ。お前はそのままで十分優秀だ。………そうだな、ではナナの今後のことは、お前の意見も聞いて考えることにしよう。」
お父様が、しゅんと肩を落とすロイの背中に手を添えて部屋を出ていく。ロイは最後にいたずらなウインクを残していった。ロイはいつも私を助けてくれる。
頭の回転が早く、見目麗しい。
本当に自慢の弟だ。
この件はきっと、ロイが何とかしてくれるだろう。