第3章 岐路
母と再会してから二年の月日が流れた。
私は十六歳。猛勉強の末、医学大学を飛び級で卒業し、医者として働ける資格も取った。過去最年少と言われる医師の誕生に、あの父もまんざらでもない様子だ。
私は王都を離れたいと考えた。
母の意志を知ったことも大きかった。
確かに母の言った通り、王都には医療が充実している。権力と金が集まるところには十分な医療体制があるにも関わらず、地下街や壁の最も外側に位置するウォールマリアの区域には、医療体制が整っていない。
医師としての初めの一歩を踏み出すのなら、本当に医療が必要なところで役に立ちたい。
夕食のあと、部屋で資料の整理をしていると、ハルが母からの手紙を届けてくれた。あれから母とは手紙でやりとりをしていた。
医学大学を卒業し、ウォールマリアの区域で医師として働きたいと書いた手紙の返事が来た。母がお世話になった、シガンシナ区のイェーガー先生に連絡を取ってみたところ、ぜひうちで働いてほしいと申し出があったそうだ。私にとっては、願ってもない話だ。
さて、問題はお父様の許可が得られるか、といったところだ。
と、その時ドアをノックする音がした。
「はい。」
お父様だといけない、と慌てて手紙を隠す。
案の定、お父様だ。
「ナナ。入るぞ。」
「なにか御用ですか?」
「お前に、結婚を申し込みたいという方がいらっしゃる。良い縁談だ。おそらくお前はこの方と結婚することになるだろう。」
晴天の霹靂だった。私は思わず、情けない声を出してしまう。
「……は?」
「結婚しろと言っているんだ。」
「だ、旦那様……お嬢様はまだ十六歳でいらっしゃいますよ……?」
思わずハルも物申す。