第23章 扇揺 ※
「あの、この後約束があるので私はこれで失礼しま――――――」
何とかわずかに頭を下げ、言い訳を残してその場を去ろうとするが、それは許されなかった。
その大きな手で、手首を掴まれる。
ビクッと身体を震わせて振り返った私は、どんな顔をしていたのだろうか。
「――――――これは、私情だ。」
「!!」
顎に手が添えられる。
私は目を固く閉じて、些細な抵抗として唇をかみしめて俯いた。
「―――――――――――。」
身体の奥に響くような、心臓を掴まれるような感覚すら覚えるその声で、耳元でエルヴィン団長は囁いた。
と、同時に私の手には、小さな箱が乗せられている。
驚いて、その箱とエルヴィン団長の顔を目線が往復する。
「ははっ、なんて顔だ。」
エルヴィン団長が噴き出したように笑って、私の頬を軽くつまんだ。
「少し早いが、誕生日には私は王都に行っていて不在にするからね。先に渡しておきたかった。」
「………誕…生日………。」
「19歳おめでとう、ナナ。」
口付け、されるかと思った―――――――。
ホッとしたと同時に、私は足に力が入らず、そのままペタンと座り込んだ。