第23章 扇揺 ※
「あ、へいちょー!」
「………あ?」
素っ頓狂な呼び声に振り返ると、ナナバの班の一般兵……確か、ゲルガーだ。
「なんだゲルガー。」
「おっ?覚えてくれてるんすか、俺のこと。人類最強に覚えて貰えて光栄です。」
「あぁ、てめぇの筋の良さはそこそこ認めてる。せいぜい犬死ににならねぇよう努力するんだな。」
「はは、厳しいっすね兵長は。」
「………なんだその兵長ってのは。」
「え?なんかほら、兵士長って長いじゃないすか。兵士の長だからってのはわかるんですけど、兵の長で良くないすか?呼びやすいっすよ。」
「下らねぇ……好きに呼べ。」
「あ、今度酒でもおごってくださいよ!」
一般兵の奴はやはり変な奴が多い。
……確か、ハンジの研究室に入り浸ってるのも一般兵じゃなかったか。まぁ戦力になるなら目をつぶっていてやってもいいか、と俺はゲルガーに背を向けて歩き出した。
一般兵のほとんどが、まだ作戦の意味合いと訓練の意義を正しく掴めていない。
立体機動の習熟度が自分の生死を大きく揺るがすことを理解しているのは一握りで、そこまで丁寧に教え込むことは不可能だ。
持って生まれた身体能力と、この訓練をどれだけ有意義に自分の力に変えることができるか。
エルヴィンが選んで100期生に編入させた5人は、それを言われずとも理解している奴らだ。
総じて頭も悪くねぇ。