第251章 〈After atory〉紲 ※
――――――雪の舞い散る夜。
それはいささか急だった。
もうずっとエイルが待ちきれずに、あまりに毎日毎日神様に『早く会いたい』と願い続けたからか、予定よりも早くにナナは病院に運ばれた。
ナナが痛みに耐える辛そうな顔。
涙を溜めた表情に、もがくように息を荒げるその様子は……俺には恐怖でしかなかった。
今日に至るまでもそうだ。
ナナはまるで飯が食えなくなった時期もある。毎日吐いて吐いて吐いて、俺やエイルに見つからないように夜中、声を殺して泣いていたことも知っている。
それでも体調が落ち着いている時には心底幸せそうにしていて……こんなにも辛い日々に見えるのに、まるで少しの後悔もないようにいつも、笑ってた。
俺はナナに母さんを重ねていた。
……母さんもこんなに辛くて……でもそれを凌駕するくらい、俺を腹に抱えて幸せだったのだろうかと。
いよいよその時が近づいて、背中をさすって手を握ってやることすらできずに別室に運ばれていくその間際、激痛の中息も絶え絶えにナナは俺に『待っててね。』と言って……笑った。
心臓が激しく鳴り続けていた。
もしこのまま、ナナがもう笑わなかったら。
もう俺をその目に、映さなくなったら。
こんな恐怖に見舞われるなら――――、やっぱりあの時……ナナの望みを拒否してでも拒むべきだったのか。
息苦しいくらいの恐怖に怯えながら俯いて病院のロビーで待つ俺の手を握って、エイルが『大丈夫だよ、きっと。』と言って笑った。
思わずエイルを抱き寄せると、エイルはまるでナナが俺にそうするようにそっと頭を撫でては小さな声で、母から継いだ異国の言葉の歌を歌って……その歌は雪に交じって柔らかく、その夜を包んでいった。
「……眠らないのかエイル。もう11時になる。」
「楽しみで眠れないよ!」
ロビーのソファに寝ころんで、俺の膝に頭を預けるエイルの髪を撫でる。
「絶対可愛いもん……。お母さんに似ても、リヴァイさんに似ても綺麗になるね!」
エイルはこらえきれない、といった様子で手足をバタバタと興奮気味に動かした。