第251章 〈After atory〉紲 ※
翌朝。
愛欲の巣と化した小さな白い家をまた隅々まで掃除して整えて……俺たちはそこを発った。
馬上でナナを抱いて駆けると、またナナは少女のように移り行く景色に目を輝かせては俺を呼んで、笑う。
その声も表情も匂いも体温も全部―――――まるで時が引き戻されていくような感覚のまま森の中を走り抜け、街を抜け……目の前には、蒼天にそびえるもろく古い石造りの時計塔。
ナナを馬から降ろすと、俺が馬を繋いでいる間に吸い込まれるように足早に時計塔の中に駆けて行った。ため息交じりにナナを追おうと踏み出した足元。
いつもなら気付きもしないその存在に気付くようになったのも……ナナの影響だ。
ふ、と笑みをこぼしながらそれを、手折った。
とん、とん、とん
ゆっくりと螺旋階段を上がっていく。
そこにいる。
階段の踊り場が拓けて、太陽の光を取り込む明るいその場所に。
眩しい光に細めた目を、足元の石段から顔を上げて光が降り注ぐその先へ向ける。
そこには当たり前にナナがいる。
あの頃腰の付近まであった長く美しい白銀の髪は顎先で切りそろえられている。
俺に向かって伸ばした左手は、いくつかの指は満足に動かせない。
その白く柔い体を流れる血は病で冒されていて……明日どうにかなっても、不思議ではないのに。
ナナは変わらず綺麗で、その目に俺を映して幸せそうに笑っている。
「――――リヴァイさん?」
俺がぼんやりとナナを見つめているからか、どうしたのかと首を傾げて俺に一歩、近寄った。
そっと俺の手をとって、同じ景色を見せるために踊り場から空を指さす。
「ほら見て、すごく綺麗な透き通った空。」
「――――ああ。」
「もう壁もない。狭い籠の中みたいな世界じゃない……変わりましたね。あの頃とは……。」
「――――お前は変わらないな。」
「え?」
空を指さして遠くを見つめていたナナが、俺の方を振り返る。
きらきらと輝く髪が揺れて……俺はまたそれに少し、見惚れる。