第251章 〈After atory〉紲 ※
私は命を失うことに怯えすぎて、今……まともに医者として機能しない。
手が震えてメスも握れないし、重傷の患者さんを見たら取り乱してしまう。
――――目の前で誰かを失うのが、怖い。
ずっとずっと張りつめていた糸が、あの天と地の戦いが終わった途端に切れてしまったみたいで……唯一誇れる自分の武器すら使えない。
リヴァイさんはそれをわかっていて、私を医療関係の仕事から遠ざけた。
いつかまたきっと……命と向き合える日は来る。
私は医者だ。
この恐怖を乗り越えて……多くの人を救うことを諦めない。
でもそれにはもう少し時間が必要らしい。
自分も傷だらけなのに……私のことを守ろうとしてくれる。
いつまで経っても私は、この人に守られている。
「――――だから私は、あなたに少しでも何かを……返したい……。」
“血を分けた存在”を腕に抱いた時のまだ見ぬ感情も。
そして……育っていく子に愛情を注ぎながらきっとあなたは…… 大好きだったお母様が自分にかけてくれた愛情を思い出して、大切な宝物として胸に刻めるはずだから。
私を、そして私だけでなくエイルを……守り愛してくれるあなたに、私にしかできないことで返したいの。
そしてそれは……狡い私自身のためでもある。
「………ずっと、放してなんてあげない。」
もう一度さらりと彼の髪を撫でると、珍しくリヴァイさんが寝言を零した。
「…………ナナ…………」
「――――はい、リヴァイさん。」
「―――――行くな………」
―――――涙が出るのはなぜだろう。
はい、と言えない代わりに、私はまたシーツに潜って、胸に彼を抱き締めて頭を撫でながら子守歌を歌った。