第251章 〈After atory〉紲 ※
混乱していた。即答できなかった。
なぜなら、エルヴィンの忘れ形見を……まるでリヴァイさんの娘であるかのように、その姓を名乗らせることが良いのかどうか、私には判断がつかなかったからだ。
「お前を縛りたいというのは俺の願望としてある。それは嘘じゃない。――――が、エイルにアッカーマンの姓を名乗らせることで防げるものもあると思った。」
リヴァイさんは……マーレで私が眠っている間に起きた誘拐未遂やその他諸々のエイルに降りかかる災いを経験して、それをどうにか防ぎたいと言う。その話は初耳で私はとても驚いたけれど……確かに、この島に帰ってきてからも、よく知りもしないはずの商家や貴族の方々からの養女として迎えたいという申し出や、酷い時には婚約の申し出まである。
私は自分がそこそこ面倒ごとを引き寄せやすい出自だということを自負しているのだけれど、エイルはそれに輪をかけている。
――――オーウェンズの血筋だけでなく、人類の反撃の矛として過去最高の団長だったと名高いエルヴィン・スミスが唯一残した娘であるという噂はすでに社交界界隈で広がっていたからだ。
あと親バカだけれど可愛い。
エルヴィンに似てとても美形だとも思う。
「俺の娘であると見せることができれば……、危害を加える意味での面倒ごとは減る。……誰も、殺される覚悟で誘拐なんてことはしねぇからな。」
「――――………。」
「………お前が心配なものを一つでも、減らしてやりたい。」
「…………!」
「気がかりなんだろう?――――エイルがますます美しく……育っていくことが。」
なぜこんなにも私のことが分かるのだろう。
そしてどうして、私の叶えたいことを汲んでくれるのだろう。
涙が、出てしまう。
いけない、幸せなひと時のはずなのに……。
そうだ、私はエイルがお嫁に行くまで……この世にいられるかわからない。だから……見届けられないとしたらそれだけはひどく不安だ。
――――もし、今このお腹に命が宿って……無事生まれてくれたなら、その子のことも………。
「答えは急がない。考えておくといい。」
「………はい………。」