第251章 〈After atory〉紲 ※
2人愛欲の果てにまどろみながら、リヴァイさんの腕に抱かれていた時……小さくリヴァイさんが私を呼んだ。
「―――――ナナ。」
「………ん?」
「―――――提案がある。」
「………厭らしすぎる提案なら却――――――」
「籍を入れるか?」
「――――――え。」
想像もしていなかった言葉に唖然としながらリヴァイさんを見上げる。
「今の俺にはリヴァイ・アッカーマンという戸籍がある。」
「はい……それは、知ってます……。」
リヴァイさんは地下街の出身で父親も不明。戸籍が無かった。
あの時代にはよくあることで、民のことをちゃんと把握しようとしてもいなかったおざなりな行政のもと、無戸籍児は決して少なくはなかった。
自分の愛称として呼ばれて育った名前だけを大事に抱えて、本当の姓も名もわからない……親もわからない……そんな子が、地下街にも孤児院にもたくさんいた。
――――そんな状態でなければ、確かにマーレの戦士たちが紛れ込んできた時点で戸籍が無いことを怪しめたはずなのだけれど……結果、権力の中枢にいた者たちが民をないがしろにしたことが破滅へと導いたのだから皮肉な話だ。
ヒストリア女王が国を治めるようになってからは、民の人権という点では特に大きくこの国は変わった。今では戸籍のない人間はほとんどいなくて……その中でリヴァイさんも、本来のリヴァイ・アッカーマンとして戸籍を取得したのだった。
「――――名実共に家族になるか、という提案だ。無理にとは言わない。」
「――――………。」
私は考えた。
――――だって……だって、そしたら………エイルは……?
エイルの籍はオーウェンズにある。
彼女はエイル・オーウェンズだ。エルヴィンとは……籍を入れていたわけではなく、戸籍上エイルはスミスの姓を持たない。私がアッカーマンの籍に入ってしまったら……エイルは、どうなるのだろう。と胸がざわついた。
……けれど、リヴァイさんがエイルのことを考えていない、はずがなかった。
「もちろんエイルも一緒に、だ。エイルは目立ちすぎる。アッカーマンの名前を背負ってりゃ、威嚇にもなるし防げるものもある。」
「………この世で一番大事な幼女を養女にするってことですか……」
「………何言ってんだお前。」
「―――――………。」