第251章 〈After atory〉紲 ※
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―――――クソがつくほど可愛い。
母娘そろって随分とおねだりが上手くなりやがった。エイルは自分の顔面の破壊力をわかっていてそれを駆使してきやがる。ナナは……俺なら、甘えればなんだって叶えてくれると思ってやがる節がある。
――――まぁその通りだ。
むしろすべて叶えてやりてぇ。
だからおねだりなんざする必要もねぇんだが、ナナが恥ずかしそうにエイルの真似をして俺にねだってくるのがたまらなく可愛くてついついそれ見たさにナナのお願いを一度拒否してみる、なんてことも俺の最近のちょっとした趣味だ。
『早くあのお家に帰りたい』だと?
もうそれは宣戦布告として受けとったぞ。
こちとら昨夜は我慢したんだからな。と、今夜ナナをどうしてやろうかと悶々と頭の中がエロい妄想で埋まっていく。それを悟られるわけにはいかず、表情を殺して耐える。
そしてふと大事なことを忘れていたと思い返す。
俺はこの機に、ナナに話さなければならないことがある。――――それを話した時のナナの反応は想像があまりつかない。どんな顔を見せるのか、それもまた楽しみだと思いつつ市場を進む。
この先の大通りに風呂屋があったはずだ。
数歩進んだところでハッと我に返る。
―――――ナナの手を、離してはいけない。
振り返ってナナに手を伸ばすと、心底嬉しそうにナナは俺の手をとって笑った。
その後、野菜やパンを調達して荷物を載せるために馬に戻るかと方向を変えた時、ナナが一瞬ピタ、と足を止めて何かを見ていた。
「どうした?」
ナナが見つめる先にあったのは酒屋だ。
ナナは酒を滅多に飲まない。その事実と、ナナのその表情ですぐにわかった。