第251章 〈After atory〉紲 ※
――――――――――――――――
もしかしたらリヴァイさんは……したかったかもしれない。けれど何も言わず、私を抱き締めてその日は……体温を分け合って眠りについた。
いつもと違うシーツの匂いと、細く開けた窓から吹き込む風の匂いも違って……どこかそわそわした。
リヴァイさんの腕の中でチラリと見たサイドボードには、ピッチャーに入った水とグラスが置いてあった。私が夜中うなされた時や情事の後に必ずリヴァイさんは口移しで水を与えてくれる。ベッドの脇にそれを置くことがまるでリヴァイさんの日課みたいになっていて、その日課は私といたことで生まれたものだと思うとつい笑みが込み上げる。
――――だって嬉しい。
私がリヴァイさんの側にいるって証明みたいだ。
――――実は、お風呂に入ってないリヴァイさんの匂いが好き。その……私も入れていないから、体中にキスをされるのはなんとか避けたかったのだけれど、こうして抱き締めてもらうとリヴァイさんの匂いがする。
匂いは記憶を呼び起こす。
鮮やかに頭の中に蘇るのは……訓練の後に備品庫に押し込められて強く抱きしめ、キスされた時のあの心臓が爆発しそうになる動悸と高揚感。
――――どうにかなりそうなほど、好きで……敵わないと思い知ったあの日々のこと。
壁外調査で共に駆けたあと、仲間を失いひどく傷ついたリヴァイさんが縋るように私を抱き締めて……心の内の辛さを、話してくれたこと。
ケニーさんを失ったやり場のない、形容しがたい気持ちを私に向けてくれたこと。
飛行船の中でサシャの死に涙する私の肩を抱いてくれたこと。
隊を率いて離れる前に……マントで作った即席の帳の中でキスをしてくれたこと。
――――船の中の束の間、体を寄せ合って生きていると示しあったこと……。
リヴァイさんも同じように、いろんな私を覚えていてくれるだろうか。
「――――ずっと、覚えていてね。」
眠ったふりをした私の髪をゆっくりと撫でていた手が止まってしばらくしてから、リヴァイさんの寝息が聞こえた。
腕の中から彼を見上げてぽつりと呟く。
その言葉は愛に溢れた言葉に見せかけた、柔らかな呪縛。
――――私はきっと悪い女だ。