第251章 〈After atory〉紲 ※
「――――さて………。」
到着してすぐにベッドルームは確認した。
その後布団も干して掃除もした。部屋の状態としては申し分ない。もう一度枕の状態、布団の状態を確認してわずかな埃も掃っておく。
「――――眠る前に水を置いとくか……。」
ナナは夜、稀にうなされることがある。
余程怖い夢や悲しい夢を見たのか、体中に冷や汗をかいて飛び起きることもある。
そんな時はナナの震えが止まるまでその体を抱いて、口付けて水を与えて……汗を拭いてやる。
すやすやと健やかに寝息を立てるその寝顔もすこぶる愛らしいが……実のところ俺は、苦しい何かから逃げるように飛び起きて俺の腕にすがるナナを、心底可愛いと……大事だと思ってしまう悪い男だ。
とはいえこれ以上ナナを蝕ませたくないのも本音で、医者の仕事から俺が今ナナを遠ざけているのはこのためだ。
この幸せな日々を手に入れるまでに――――俺たちは、あまりに殺した。
あまりに多くの仲間の、見ず知らずの幸せに生きていた奴らの死の上に生きている。
おそらくそれが時折ナナを襲う。
医者としての働き口は引く手数多にあるが……、やがて時がナナの中の罪の意識を癒してくれるまで、“命” を預かるような仕事をさせたくなかった。