第251章 〈After atory〉紲 ※
「なんでも、ないです。あ、お風呂ってそういえば……ないですよね?ここ。」
無理矢理話題を変えてくるところが、なにかあると物語っているが……、急いて暴くのは良くない。ナナが話したくなるまで待つ。ナナが拙い嘘で隠したいものを隠せるようにしてやる術も随分身に着けたつもりだ。
「ああ、風呂はない。そもそもかなり集落や市街地から離れてるからな。」
「ど、どうします……?どこかにお風呂に入りに馬で遠出……するか……。」
「一日くらい風呂に入らなくても死なねぇよ。明日の買い出しの時に済ませりゃいいだろ。」
「えっ……でもリヴァイさん綺麗好きなのに。」
「あ?そりゃ入れるに越したことはねぇが、壁外調査の時だって何日も風呂なんて入れねぇ状況にはあっただろ。もう慣れた。」
「…………でも……。」
ナナが目線を下げながらもやけに食い下がる。
風呂に入れなくて困る理由があるんだろう?と意地悪くナナを追い込んでみたくなった。
「――――気になるなら、体の隅々まで拭いてやろうか?」
「!!」
「――――お望みなら舐めてやるが。」
じっとナナを見つめて言うと、ナナの顔がみるみる火照って……口をへの字に結んで、カチャカチャと食事を続けた。
「………ばか!」
怒ったとアピールしているわりに満更でもなさそうな顔をしていることに、ナナは気付いているのかいないのか。
明日の誕生日でナナは30になる。
――――ナナをあの時計塔で見つけてから20年が経つ。もう知り尽くしたと思いきや、新しい表情を見せたり……俺を見つめてこの上なく幸せそうに笑うように、いつまで経っても変わらないところもある。
歳を重ねて変化していくもの、変わらないもののそれぞれを見つける度に、情けねぇほどまたお前に溺れて……はまっていっちまう。
「――――こういう時間も、いいな。」
食事をしながら言った俺の一言にナナは怒っていた顔から一転して穏やかに愛らしい笑顔を返す。
「――――はい!」