第250章 〈After story〉花
「…………またお母さんばっかりだっこ……。」
エイルの言葉に、リヴァイさんは目を大きく開いて驚いた顔をした。エイルはワンピースの裾をぎゅっと握りしめていて、勇気を出してその一言をリヴァイさんに伝えたんだということがわかる。
リヴァイさんもまたエイルのその手元に一瞬目線を移してから、どうにも愛しい、という顔をして柔らかく笑った。
「ナナは足が悪い。随分歩けるようになったが、まだ練習中だからな。転ぶと大変だろう?」
「………わかってる………。」
「それにな、俺にとってナナは妻で……最愛の存在だ。だからどうしても構っちまう。」
「………わかってる、けど……、わたし、だって……。」
――――あぁこの子は、本当にリヴァイさんが好きなんだ。……地下街の日々での私を見ているようだ。
エイルは唇をへの字に結んだ。
言いたいけれど、言えない。
リヴァイさんはそれもお見通しで、エイルの言葉をちゃんと引き出してくれる。
「――――言っていい、エイル。お前の我儘が俺は好きだ。」
リヴァイさんのその、たった一言でエイルの表情が変わった。明るく光が満ちたように目を輝かせて、両手をリヴァイさんに向けて広げて年相応の我儘を言う。
「私もだっこして欲しい!」
――――エイルのその言葉はまるで、私の記憶の奥底にあるしこりまで溶かしてくれるようだった。