第250章 〈After story〉花
「エイル。どうした。花が欲しいのか?」
「あ、リヴァイさ……。」
エイルが花畑の中にしゃがみこんだままリヴァイさんの声に反応して顔を上げた。嬉しそうにご機嫌な顔が上げられたと思ったその瞬間、ほんの少し眉を寄せて唇を尖らせた。
「どうした?何を難しい顔をしてる。」
「……別に。」
エイルはふいっと拗ねたように顔を背けた。その頬が少し、赤らんでいるように見える。
――――エイルとマーレの病院で再会してからずっと思っていた。
エイルは……いつもご機嫌に笑っていることが多い。
必要以上に明るく無邪気な、“私たちの望む子供像” を演じているように見える。
――――私にはその気持ちが少し……わかるんだ。
ハルを心配させちゃいけない。
迷惑をかけちゃいけない。
だって血の繋がりがないんだから。
失望させたら、嫌われてしまったら……ハルまで私の側からいなくなってしまうかもしれない。
そう、幼いながらに怖かった。
……今なら、ハルは私が我儘を言ってもたとえ失望させるようなことをしても……側にいてくれることに変わりないほど私たちを愛してくれているって、わかる。
だからエイルが、いつもいつも明るく笑ってしかいない毎日が、少し心配だった。……けれど、私がマーレの病院からまだ退院できずにいたあの日々で、エイルは少しずつ変わっていったように思う。
それは―――――
「エイル。こっち向けよ。」
「…………。」
頑なにそっぽを向くエイルを見て、リヴァイさんは私の機嫌をとるように小さく頬にキスをしてから私を降ろした。
そしてエイルの側にしゃがんで目線を合わせて、その小さな手を握りながらまっすぐに目を見てエイルを諭す。