第250章 〈After story〉花
「――――あいつらは案外、今ほっとしてるんじゃねぇか。」
「…………?」
「いつもいつも俺とお前のことばかり世話を焼いていやがったからな。」
「……はい、確かにそれは……そうですね……。」
「だろう?だから言ってやれ、『幸せだ』と。あいつらもきっと……浮かばれる。お前が笑っていれば。」
リヴァイさんの言葉は何の抵抗もなく私の心の奥にすっと入ってきて……きゅ、と収縮していた心が、ふわりと少し柔らかくなった気がした。
「……はい。」
「歩けるか。」
リヴァイさんが手を差し伸べてくれて、自分の足で花畑の方へと足を進める。
リヴァイさんに支えてもらう手首にきらきらと光るのはリンファとお揃いの髪飾り。悪夢のようなあの日私の目の前で弾けて輝く石は散り散りになったから…リンファの分はもう……ここにはない。
それに、ここにリンファの亡骸が埋まっているわけでもない。リンファがこの世に残したのは一房の遺髪だけで……それはサッシュさんがいつも持っていたから……サッシュさんが最後にリヴァイさんといたあの巨大樹の森に散ったのかもしれない。
あの美しい一房の黒髪がどうか土に還って、また新しい命の糧になっていればいいと……そう、思う。
リンファのご両親は……お母様は亡くなっていて、内縁の父親は……行方がわからなかった。……いやもし分かったとしても、リンファの髪の毛の一本だってその男に返すつもりもなかったけれど。
「……生きていた証のひとつくらい残していけばいいものを……あいつらは本当に馬鹿野郎だ。」
ふとリヴァイさんが呟いた。
その横顔を見ると、サッシュさんのことを思い出しているんだろう、眉間に深く皺を刻んでいる。