第250章 〈After story〉花
その日は、穏やかな陽射しが緩やかな青々とした緑が息吹く丘陵を照らしていた。爽やかな風が吹くと白い花弁の小さな花が揺れる。
――――彼女が好きだった、カモミールだ。
その丘陵に一本、ただ静かにその移りゆく景色を見守っているような木がある。
「これはミズナラ!」
「そう、よく知ってるねエイル。」
「うん!辞典で見たよ!」
リヴァイさんが車いすを押してくれて、そのミズナラの木の下でカモミールが群生する丘を見下ろす。
「遊んで来てもいい?」
「いいよ。気を付けてね。転ばないで。」
「うん!」
エイルはすぐに丘に駆け出し、花畑の中にしゃがんで嬉しそうに花や蝶、ミツバチと戯れている。そんなエイルを柔らかい表情で見つめているリヴァイさんの横顔を見上げていると、私の視線に気づいたのかリヴァイさんが膝を追って私に目線を合わせてくれる。
「どうしたナナ。」
「………毎日こんなに幸せなことが少し……申し訳、なくて。」
思ったまま口にする。
膝に抱えていた花束と、小さなクッキーとカモミールの茶葉が入った缶を持つ手に少しだけ力が入る。リンファもサッシュさんもきっと、私たちのことを嬉しそうに見守ってくれているってわかる。
――――でも、それでもやっぱり……ここにあなたたちもいてくれたら。そんな今があればどんなに良かったかなんて……思ったって2人は帰ってはこない。わかっては、いるのだけれど。
私の中の2人の存在はあまりに大きくて……思い出す度に流れる涙は未だ涸れることはない。静かに頬を伝った涙をリヴァイさんの指がそっと掬ってくれる。