第2章 変化
「あなた……どうしたの?驚くのも……無理はないけど……。」
母がリグレットさんの顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。本当に驚いた。その歌声も。透き通って美しい声だ………。そしてまさか……彼と同じ思想を持っている少女に出会うとは、思ってもいなかったよ………。」
「彼………ってもしかして、あなたがこの右足と引き換えに庇ったあの子?」
「ああ……頭の回転も速く、運動能力もずば抜けている。さらに驚かせたのは、その思想だ。彼もまた、『壁の外に人類がいないと、なぜ言い切れるのか?それを確かめるための足掛かりとして、まずは巨人を知り、巨人に打ち勝たなくてはならない。本当の自由を手にするために』と言っていたよ……。」
リグレットさんは懐かしむような口調で話した。そして私を見つめて言った。
「君がもし、調査兵団と関わる事があれば……必ず彼と出会うだろう。下手すりゃ、団長になってるかもしれないよ。」
そう言ってリグレットさんは笑った。微笑む母に、私は尋ねた。
「お母様は……私の思想を責めないの……?罪と……される思想なのに。」
母は困ったような顔を見せ、目を伏せた。
「それはね……もちろんあなたの事は心配だし……できるなら、このまま平凡に……愛する人と結婚して……子供を産んで……幸せになって欲しいわ。……でもね。それは、私があなたに勝手に押し付ける『幸せ』なの。なにが幸せなのかは、あなたが選んで良いのよ。きっと屋敷の中だけで納まる子ではないのだもの。だって……」
「あなたの、お母様の娘だから。」
母の言葉を遮ってそう言うと、母の目から涙が零れた。
「ええ………!その通りよ………。私の……大事な大事な娘なんだから………!」
父の豹変に、母を恨んだ日もあった。
捨てられたと思った。悲しかった。
でも、もう大丈夫。私は愛されている。
そして、私の愛する母も、自分の選んだ道を愛する人と歩んでいる。これ以上嬉しい事があるだろうか。
泣きじゃくる母の肩を抱くリグレットさんの優しい目を見て、私は暖かい気持ちになった。
同時に、彼の事を思い出す。
彼はまだあの地下街にいるのだろうか。
不器用な優しさを示せるような相手と、出会えているだろうか。