第2章 変化
それからは日が暮れるまで他愛もない話をして過ごした。泊まっていきなさい、と母が手料理を振る舞ってくれた。屋敷では食べられなかった母の手料理は、今までで一番、優しい味がした。
翌朝、帰り支度を済ませ、荷物を馬に乗せた。
「ねぇナナ。」
「はい。」
「もし……こんな母でも……私でも力になれることがあるのなら、いつだって来て欲しい。手紙を書いてくれたら、王都まで行くこともできるわ。」
「うん………ありがとう。」
リグレットさんも見送りに来てくれた。
「ナナちゃん。こんな足だから頼りないかもしれないけど……お母さんは僕に守らせてくれないか。これから先も。」
「……はい。どうか母を、よろしくお願いします。」
私は深々とリグレットさんに頭を下げた。
「あなたの大きな夢……応援しているわ。またあの歌を聞かせて。」
「うん………。」
馬にまたがり、母の方を向く。
最高の笑顔で別れたかった。来てよかったと、伝えたかった。
「じゃあ、行くね!!……あぁそうだ、お母様の夢を聞いてしまったからには、私の夢を叶えるついでに、叶えてあげるよ!私が、医療格差もろとも、世界を変えてやるんだから。」
いたずらにニッと笑うと、母は私と同じ顔で笑った。
「ハル、帰ろう!!」
「はい!!」
私たちは馬を駆り、帰路へついた。
「………なんて強くて、賢くて、美しい子だろう。」
「……それに……優しすぎる。それがとても心配だわ………。私がいなくなって、主人はあの子に辛く当たったはずよ……生き写しのように似ているんだもの。それを一切、言わなかった……。恨んでいると、許せないと、なじられる覚悟をしていたのに。自分を捨てた母の幸せを願うなんて……私には………できなかったもの………。」
クロエは空に祈った。
「神様………どうかあの子をお守りください………。」