第247章 〈After atory〉虹
兵長が背中を押してくれたことを無駄にしないためにも、俺は一度実家に帰った。両親は大層喜んでくれて……俺が危惧していた、将来のことを俺に何か望むなんてことも一言も口に出さず、ただ俺が生きていることを有難いと、誇らしいと……言ってくれた。
そして実家を発って、宛もなく心の赴くままにあちこちを旅した。ずっと戦うための訓練ばかりしていた俺には、パラディ島の中だけでも未知の世界が山ほどあって、自分がいかに小さい世界で生きていたのかと思った。
――――俺のこれからは、今から探せばいい。
そう思った矢先。
急な雨に降られて、雨宿りのために立ち寄った小さな町のメシ屋で、それは起こった。
「――――お待たせしま―――――」
新聞を読みながら料理を待っていたところに、ようやく来たと思ったら……そのウェイターが言葉半ばでがしゃん、と高い位置から料理の乗った皿を落とした。
「えっ?!おい―――――」
一応料理は無事みたいだが、なんだよと文句を言おうと顔を上げて――――驚いた。
見たことのあるブラウンの髪とブラウンの瞳の大きな目。
昔は髪が男みたいに短かったのに―――――
「――――アーチ……?」
「――――ティル……?」
まちがいない、訓練兵時代の俺の同期。
ティルだ。
――――先輩に乱暴されて身ごもって……訓練兵団を退団した。風のうわさで、母子ともに元気にしているとは…聞いたことがあったけど。
ティルはものすごく驚いた顔から一転して、顔を真っ赤にして髪を気にするように手櫛で前髪を整え、後ろで結った髪も手で梳いてから目を泳がせた。そして意を決したように、頑張った明るい笑顔を向けてくる。
「ひっ、久しぶりだね!」
「――――声、裏返ったよな今……。」
「言わないでよ!!びっくりしてんの!!」
「――――ふっ………。」
「……笑わないでよ……!」
「……あははっ……、まさか……会えるなんて……。」
「……うん……あたしも、びっくり……。」
「――――元気?」
「……うん。」
「……子供は大きくなった?」
「―――――うん………。」
彼女は気まずそうに少し困ったように眉を寄せて、笑った。