第247章 〈After atory〉虹
「……そういやお前、実家の両親のところに顔は出してんのか?」
「……あぁ、まぁ……こっちに戻って来てからは一度だけ……。」
兵長から家や両親のことを聞かれるとは思ってなかったから、それもまた驚いた。
「――――両親だっていつまでも健在でいるわけじゃねぇ。後悔しないようにしろよ。」
「――――……はい……。」
正直俺は両親に会うことに気が進まない。
兄ちゃんが死んで……打ちひしがれていた両親に、なんとか希望の光を見せてやりたい気持ちはあるけど、俺には到底家庭を持つとか孫の顔とか、そんな夢は見せてやれないから。
――――兄ちゃんとリンファが生きていたら……結婚して子供が生まれて……こんな風に幸せな家庭を両親に見せてやることができたんだろうと思う。兵長のおかげで随分……自分が生き残ったということへの罪悪感は抱かなくなったとはいえ両親にだけはやっぱり……『兄ちゃんじゃなくて俺でごめんな』という気持ちが消えない。
「――――お前の好きにすればいいが……、両親にとってもお前は間違いなく宝だろうよ。」
「――――なんで、そんなこと言えるんですか……。」
「サッシュとお前の人間性を見てりゃわかる。愛されて大事に育てられたんだろうってことくらい。」
「…………!」
兵長のその言葉は、俺の中で何かの頑なな殻に少しだけヒビを入れた。
「――――……今度、久しぶりに……帰ってみようと思います。」
「そうしろ。」
一言だけ残して、兵長は紅茶をすすった。
その後気付けば日が傾いて、食卓に並べられたナナさんお手製の夕食をみんなで食べて……俺は帰路についた。
エイルは俺が見えなくなるまで手を振ってくれて、ナナさんは『またいつでも来てね。』とにこやかに声をかけてくれた。兵長は相変わらず最後まで不愛想だったけど『たまには紅茶を淹れに来い。』と言った。素直じゃないな。きっと俺は……心配されているんだろう。
それは嬉しいけれど、これからをどうするのかは自分次第だから。
――――あの日兵長が自分で一歩、怖いながらも足を踏み出したみたいに……今度は俺が自分の足で歩きださないといけないのかもしれない。
――――そしてこの決意から起こした行動が、思わぬ方向へと進んでいくことになる。