第247章 〈After atory〉虹
「これ………。」
「………たまたまいいものを見かけて――――」
「嘘だぁ、リヴァイさんすごく悩んでたよ?」
「そうですよ、アーチさんが好きそうなやつはどれだって、ねぇ?エイル。」
「ねぇ――――?」
「ねぇ――――?嘘はいけないねぇ?」
母娘ふたりが目を合わせて笑う。
兵長は照れ隠しのように顔を手で覆いつつ、あっちへ行けと手で2人を払って見せた。
「お前ら黙ってろ……!特にナナ、お前だ……!」
「うふふ。……ぁ、そうだエイル。晩ごはんの支度をしたいの。手伝ってくれる?」
「うんいいよ!アーチさんも晩ごはん一緒に食べる?」
「え、あ……いいの、かな……。」
早く帰れとか言われるんじゃないかと、兵長のほうをちらりと見ると……兵長はふん、と鼻を鳴らしつつもちゃっかりまた惚気つつ夕飯までご馳走になることを許してくれた。
「―――食ってけ。ナナの飯はうまい。」
「そうだよぉ、お母さんのご飯おいしいよ!たまに失敗するけど!!」
「失敗しないように頑張るの、今日は!」
「私お手伝いする~!」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
それから、ようやく少し昔の感覚を思い出したように兵長と色んな話をしていると、気付けばキッチンから食欲をそそるいい匂いが立ち込めてきていた。
「……いい匂いしますね…。」
「……シチューだろうな。」
「えっ、嬉しいな。俺の好物だ。ナナさん、知ってたのかな……?」
「ナナがシチューを作るのは俺の好物だからだ。てめぇにじゃねえ。」
「……別に張り合わなくても、ナナさんとったりしませんよ……。」
どこまで用心深いというか子供みたいな牽制するんだよまったく。平和な毎日は兵長をちょっと変な方向に向かわせてやしないか心配になるくらいだ。
……でも……この人がようやく、目の前のあのよく笑う宝物2人だけを守って生きていける今があってよかったと、そう思う。