第247章 〈After atory〉虹
ナナさんとエイルの姿を穏やかな顔で見つめながら、兵長が客であるはずの俺の方へようやく歩いて来て、隣のソファにドカッと腰かけた。
「――――………。」
「――――………。」
何を話し始めるでもなく、妙な沈黙が流れる。数秒なら耐えられもするが、あまりに間が持たない。
「―――――いやなんか喋れよ!」
「あ?」
「俺客なんですけど、一応……。」
「………ああ。元気だったか。」
「兵長から気遣う言葉が最初に出てくると怖いですね……。」
「てめぇが喋れと言ったんだろうが。元気だったのかと聞いてんだ。答えろ。」
さっきまでのナナさんやエイルに向けていた柔らかい空気はどこに行ったんだか。腕を組んで、まるで尋問みたいに日和話をしてくる奴も珍しい。
「元気、ではありました。」
「――――ではあったってなんだ。含みがあるな。」
「まぁはい……、ご存じの通り調査兵団も……なくなって……平和だけど、毎日することもないっていうかね。」
「そうか、だからあの時俺に無駄について回ってやがったんだな?」
兵長の指す “あの時” というのは……パラディ島に帰って来てすぐのことを指しているんだろう。
あぁ、なんとなくわかったぞ。この人は……
「それもありますけど、一番はあんたが心配だったからだよ。」
「…………。」
「見てよ兵長。あんたの家族。どんな感じですか?」
この人はきっと、『あの時は助かった』って言いたいんじゃないかな。面白いじゃないか。この人の口から、珍しい『ありがとう』がまた聞きたい。そんなつまらない画策をしながら兵長の目線をキッチンに立つナナさんとエイルに誘導する。
2人を見つめた瞬間、怖かった表情が一転してとんでもなく柔らかに、幸せそうに変化する。そしてはっきりと感想を述べた。
「妻は貞淑で可愛く美しいし、エイルは愛らしく賢くてこの世のものとは思えな―――――」
「えっ想像以上にすっげぇ惚気るじゃないですか……。」
なんだよこの人、ずいぶん変わったな。いや……これが本来のこの人なのかは、わからないけど。そう思って兵長をちらりと見てはふっと笑みをこぼす。
すると、兵長がとても素直にその言葉を発したから―――――驚いた。